脱占領時代の対中政策―戦後の日本は中国とどう向き合ったかbook

「脱占領時代の対中政策―戦後の日本は中国とどう向き合ったか―」は、「対米自主」の性格を持っていたといわれた、鳩山内閣、石橋内閣、岸内閣の対中国政策について、史的分析を試みたものです。私が早稲田大学大学院在籍時(1999年~2001年)に執筆した修士論文(原題は「対米自主内閣の中国政策-岸内閣期(1957年2月~1958年5月)を中心として」)に、終章の第四節とまえがき、あとがきを加筆したものです。

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推薦コメント

早稲田大学名誉教授・山本武彦

 本書の執筆者である小山展弘さんは、早稲田大学政治経済学部政治学科に在学していた3年生の時から2年間、私の指導する演習「国際政治と安全保障」のクラスに在籍し、また大学院政治学研究科に進学後、修士課程に2年間在籍して合計4年間にわたって学問分野はもとより、私的な生活にまで幅広く交流を続けてきた方です。もとより、その真面目な学習態度は他のゼミ生の模範となり、同時にクラスの中で発揮してきた指導力には現在の政治家としての活躍を予見させるかのように強力なものがありました。
 本書でまとめられた戦後1950年代の日本の対中国政策の展開は、冷戦期の交流なき時代における制約された時代環境の中で、自律した中国政策を模索していた当時の日本の自画像の変化を映し出してきた。小山展弘さんは第一次資料と第二次資料を巧みに読み込みながら「中国封じ込め」のアメリカの世界戦略に追随せざるを得なかった時代風景を横軸にとり、鳩山政権以降の保守政権の対中国政策を縦軸にとってその限界点を描き出すことに、見事に成功している。
 1972年に日中国交回復を果たし、1978年の日中平和友好条約の調印以降、大陸中国との交流を深めてきた日本は、近年、小泉純一郎元首相の5年間の任期中に靖国神社への継続的な参拝に端を発した「政治経熟」状況に陥り、いわゆる歴史問題の深みにはまりこんできた。そして民主党政権に入って2010年9月の尖閣諸島沖での海上保安庁の巡視船と中国漁船との衝突事件を契機に、2012年4月の石原慎太郎・東京都知事の尖閣諸島購入発言で火が付いた尖閣諸島の国有化問題が、野田佳彦政権による同年9月11日の国有化決定によって中国世論を刺激いわば「政治経冷」の寒々とした環境に今も立ちすくむ。危機管理の失敗の帰結、というほかない。
 小山さんが著した本書を読み返せば、現在日本が立ち止っている袋小路から抜け出す道がほのかに見えてくるものと確信してやまない。国家百年の大計に誤り無きを期するためにも、ぜひとも本書で描き出された1950年代の日本が直面していた桎梏を今一度学び取りたいものである。

静岡県知事 川勝平太

小山さんは私の大学の恐るべき後輩です。修士論文としてお書きになった論文が、この度300ページを優に超す立派な本として、『脱占領時代の対中国政策』を出版されて、それを拝読いたしまして、十分に、この方は力がある方だと思った次第でございます。

日本は1951年9月にサンフランシスコ条約を結んで独立国になったわけですけれども、その時、中国は御案内のように、台湾と大陸中国の2つに分かれていたわけですね。この2つの中国に対して、アメリカがどういう立場をとるか?アメリカは台湾を重視する、イギリスは中共政府の方を大事にする、こうした中で日本の立ち位置をどうするか?ということについて、吉田内閣がその問題に直面し、それが鳩山内閣、石橋内閣、そして岸内閣へと引き継がれていく。通常、岸内閣というのは台湾重視で、大陸中国に対しては厳しかったという通念になっていますが、この書物は見事にその通念を覆されました。

吉田内閣以降、2つの中国に対して、日本がいかにバランスよくアメリカの政策を見て、また対共産主義とのかかわりを見ながら、大陸中国とのかかわりをどのように調和したものにしていくかということに苦心した。この苦心の背景にある哲学というのが、実は、日本独自の「東西文明の架け橋になるんだ」、そしてまた、「日本はアジアの一員として存在しているんだ」、こうした中で敗戦の厳しい現実の中から、アメリカに対してそれなりの自主性を発揮する、しかしながら、アメリカとの協調を決して失わない。一方で、台湾との関係も大事にするけれども、政経分離で経済的な形を何とか中国と共産中国とやっていこうということで、第1次、第2次、第3次と快く貿易協定が結ばれて、最終的にはこれは岸内閣が渾身の力をもって池田正之輔さんに全てを託して交渉に当たられて、最終的にそれが決裂するところでいくわけです。この間、岸内閣の背景にあった「敗戦に対する自分の贖罪をどのようにして果たすか」「できる限り日本を一流の国にしたい」という思いがあったんだということを、膨大な外務省の文書、さらに先行研究をしっかりと読み込まれて、編年的に明らかにされたということで、文字どおり、これは労作と言えるものだと思います。

この背景にある思想は、恐らく早稲田大学で築かれたものじゃないかと思いますが、東西の架け橋だ、東西文化の調和だ、日本はそのようなことを実現するべき地政学的な、また国際政治上の使命があるということですよね。岸内閣もそれを持っていたということは、安保改定も、実際は日本の相対的な自主性を確保するために改定がされたわけですけれども、それが対米従属ということで、すばらしいその試みであったにもかかわらずですね、極めて厳しい批判もあって、今日に至っています。小山さんは、勇気を持って事実に即した形で「岸信介の対米自主路線」というものを明らかにされたのだということです。私は、小山さんが、これをベースにして学者の道に進むこともできたんだろうと思います。小山君がもし研究の道に残っていれば、今頃、山本武彦先生も自分の愛弟子からこんな素晴らしい学者が出たと言われたかもしれません。

しかしながら、日本にとって本当に大事なものは何かということは、大きな視野を持って日本の独自の外交姿勢をわかりやすく説明しながら、これをどうしていくんだというふうに思います。そうした中で農協で研鑽を積まれた後、政界に打って出られて、その力を発揮された。

私はたまたま静岡県を預かりましたので、そのような盟友が、恐るべき後輩が、あるいはその静岡県や日本を託せるような人物が身近にいるということを奇貨として、御一緒にこれからも仕事をしてまいりたいと思います。 

2014年3月6日に開催した出版記念会への動画メッセージより引用・抜粋

著者 小山展弘コメント

 本書は、「対米自主」の性格を持っていたといわれた、鳩山内閣、石橋内閣、岸内閣の対中国政策について、史的分析を試みたものです。今回の出版にあたり、私が早稲田大学大学院在籍時(1999年~2001年)に執筆した修士論文(原題は「対米自主内閣の中国政策-岸内閣期(1957年2月~1958年5月)を中心として」)に、終章の第四節とまえがき、あとがきを加筆したものです。
 2000年から2010年までの十年間で国際社会・国際情勢は大きく変化しました。しかし、短期的な変化ばかりに目を奪われていると、変化していない構造に対して目を向けられなくなってしまうおそれがあります。中国の分断問題、朝鮮半島の分断問題は、政治的・軍事的に解決に至っていません。また、日中関係、日米関係、米韓関係などの同盟関係や、米中などの二国間関係も、基本的には変わっていません。北東アジアの国際社会の構造は、変化していない点も多いと考えられます。このような北東アジアの国際政治構造、戦後の日中関係等の二国間関係やその淵源について考察すること、戦後の外交問題の発生に対する日本政府の対応について探求することは尖閣等の問題などが日中間で発生する中、意味のないことではないと考えます。
 1950年代の戦後政治家の外交政策、姿勢は現代の我々に多くの示唆を与えます。本論文での述べたとおり、日華紛争に際しては、これまでの通説と異なり、日本の政策決定者たちは、蒋介石の経済断交の脅迫にも屈することなく、当初の日本の外交方針を貫くとともに、米国をテコとして日華関係を決定的に損なうことを避けたのでした。第四次日中民間貿易協定においても、日本の外交方針を貫き、日中貿易を拡大しようと試みました。そして、その外交路線は、内閣が変わっても揺らぐことはありませんでした。敗戦後という特殊な状況、冷戦構造という国際環境の中で、利害を冷静に検討しつつも、必死に日本の自立を求め、日本の国益の最大化を求める姿がありました。我々は、1950年代の政治家達…アジア・太平洋戦争を生き抜き、戦時体制の中で信念を貫き、敗戦を乗り越えて復興を果たしてきた、強靭な精神と豊富な経験を持った政治家達、議会政治への揺らぐことなき信頼を持ち、どの他国からも精神的な独立を目指し、国内のナショナリズムを満足させつつも、リアリズムに基づいて国際政治の均衡点を探ろうとした政治家達…、彼らの熟達したぎりぎりの判断、行動、政策を見るとき、現代の一部に存する勇ましいだけの外交論は、稚拙であり、一時的な自己満足を齎すことにしかならないものと思われます。自国の立場だけを声高に主張するだけでは何事も解決いたしません。
 本書の出版にあたっては、私の大学院時代の指導教授である早稲田大学の山本武彦教授、また、外交史研究において多大なご指導を賜った田中孝彦教授、そして、私の大学・大学院時代にご指導いただき、本論文の執筆にあたってもインタビューに快く応じていただいた中島政希衆議院議員(元石田博英労働大臣政策担当秘書)、その他、多くの諸先生方、諸先輩方のご指導、ご鞭撻を賜りました。皆様のおかげで、このたび、本書の出版に至ることができました。ここで改めて感謝申し上げます。